実物の伝票から起こした業務フロー | 2026年8月 ヒアリング反映

1枚の伝票が、請求になるまで

現場の人が手書きした伝票は、社長の確認を受け、事務が金額と原価を入れ、 最後に奉行へ入力されて請求書になります。ここでは実際の伝票をそのまま追いかけて、 どこで何が書き足されるのか、なぜ人の判断が必要なのかを整理します。

8伝票が通る工程
7枚1件の継続整備にかかった伝票(実例)
3種類用紙の系統(赤・緑・控)
約1.5か月着手から請求までの期間(実例)

全体の流れ

伝票は8つの工程を通ります

赤い工程は「紙の上で人が書き込む」作業、青い工程は「システムに入力する」作業です。 現状はほぼ全てが紙の上で進み、最後にまとめて奉行へ手入力されています。

伝票処理の全体フロー 現場の手書きから、社長確認、事務による金額入れ、奉行入力、請求書発行までの8工程を示した流れ図 現場 本社・管理 システム 1 現場で手書き 作業内容・使った部品を記入。 金額は空欄のことが多い。 2 事務が受け取る 件数と内容を確認。継続分は 客先ごとにクリップで保留。 3 社長確認 前日分を翌日に確認。 社長印を押す。 4 事務が金額を入れる 価格表・仕入納品書から原価を調べ、 部品代・工賃・運賃を記入。 判断できない工賃は現場へ電話で確認。 5 科目分け 1行ずつ部品/整備 工賃/運賃などに 仕分ける。 6 奉行へ手入力 1行ずつ商品コードと 金額を打ち込む。 この工程が最も重い。 7 請求書を印刷 専用用紙に印刷して客先へ。 8 入金処理 振込を確認して消込。 継続作業なら保留へ戻る 完了まで数日〜数か月かかることも
赤=紙の上での作業/青=システム入力/橙=人の判断。継続作業の伝票は工程4に進まず、完了するまで保留の束に留まります。

いちばんの詰まりどころは工程3と工程6です。 社長が確認しないと先へ進めず、社長が不在の週は伝票が溜まります。 また工程6の奉行入力は、伝票に書いてあることを人が1行ずつ打ち直す作業で、 枚数がそのまま作業時間になります。

伝票の見方

1枚の伝票に、誰が何を書いているか

同じ1枚の紙に、現場・事務・社長の3者が別々のタイミングで書き込みます。 色分けして見ると、どの欄が誰の担当なのかがはっきりします。

伝票の記入欄と担当者 請求書伝票の各記入欄を、現場・事務・社長の担当別に色分けして示した図 請 求 書 No. 501656 通し番号(用紙に印刷済) 住所・得意先名 小鈴谷 / あさひ 殿 現場 作業日 26年8月17日 現場 品名・作業名/型式 船外機 整備 F50HEHDL オイル交換/ギヤオイル交換 部品別紙 ← 部品が多い時は別紙を添付 現場 「納・取」=納品したか取付けたかの印 数量・単位も現場が記入 単価・金額 25,000 4,200 / 3,000 5,740(別紙合計) 事務 価格表と仕入納品書 から調べて記入 備考 2,180 338 3,944 =仕入原価 (利益計算用) 合計 37,940 作業状況:継続 / 完了 ← ここが継続なら請求せず保留 現場 営業日報(挨拶・商談・クレーム・集金・作業依頼) その日の活動内容を記録。無償訪問でも必ず起票する。 現場 社長印 26.8.19 社長 受入修繕費 28,000 / 売上金 9,940 整備の工賃分と、部品売上分を分けて集計する欄。 28,000 + 9,940 = 37,940(合計と一致) 事務
実物の伝票 No.501656 をもとに作図。現場 事務 判断が要る欄

実例で比較

同じ伝票の、処理前と処理後

下の2枚はどちらも同じ伝票(No.501656)です。左が社長確認の時点、右が事務処理を終えた時点。 増えた書き込みが、そのまま事務作業の中身です。

社長確認時点の伝票。金額欄がまだ埋まっていない
① 社長確認の時点 — 作業内容と一部の金額のみ。合計は空欄で、まだ請求できる状態ではありません。
事務処理後の伝票。合計と原価、得意先コードが書き足されている
② 事務処理の後 — 型式・原価・部品別紙の合計・総合計、得意先コードが加わり、請求できる状態になりました。

増えたのはこの5点

書き足された内容どこから調べるか自動化できるか
得意先コード3010220奉行の得意先マスタできる
型式の補記10W-30 / 50hp現場への確認・過去伝票半分
部品別紙の合計5,740添付した部品明細を合算できる
仕入原価(備考欄)2,180/338/3,944仕入納品書・価格表半分
総合計と売上区分37,940計算(28,000+9,940)できる

数字はすべて整合しています。 部品別紙の合計 5,740 は明細(620+1,600+380+2,240+200+140+560)と一致し、 原価 6,462 は備考欄の3つの合計と一致、 総合計 37,940 は明細4行の合計とも、受入修繕費28,000+売上金9,940とも一致します。 つまり伝票の中で計算は閉じており、合計や区分は機械が計算できる部分です。

一方で自動化が難しいのが工賃です。 この伝票の「整備 25,000円」は、ベテランか新人か、取り付け場所が作業しやすいか、 客先ごとの慣習はどうかといった判断の結果で、価格表から一意には決まりません。 同じ作業でも「今回はこれでいいよ」と金額が変わることがあります。

いちばん複雑なケース

継続伝票 — 7枚で1件の整備

下は実際にあった「竹下 全自動 TXZ106-170」1台の整備です。 6月9日から7月22日まで、7枚の伝票に分かれています。最後の1枚を除きすべて「継続」に丸が付き、 完了するまで請求できません。

継続伝票のタイムライン 6月9日から7月22日までの7枚の伝票を時系列に並べ、継続と完了の状態を示した図 6/9501797 着手金額なし 6/10501799 継続作業金額なし 6/11501801 42,900+運賃980 7/15501840 1か月あく部品待ち 7/16501841 399,000ベルト5本 7/21501842 10,170部品+運賃 7/22500606 15,700 完了 → 請求へ この間ずっと保留の束の中 ◯=継続(請求できない) ●=完了(請求できる) 着手から請求まで 約1.5か月。この間に同じ作業がもう一度起票される事故が起きます。
実物の伝票7枚(No.501797〜500606)から作成したタイムライン。
6月9日の継続伝票
6/9 着手。作業名だけで金額なし。
6月11日の継続伝票
6/11 ローラフロワー 42,900+運賃。
7月16日の継続伝票
7/16 ベルト5本 399,000。取消線もそのまま。
7月22日の完了伝票
7/22 レール2本で完了。ここで初めて請求。

手書きで伝票同士を紐付けています。 7/15と7/16の伝票の余白には「501620 500603」「501621 500604」といった別の伝票番号が手書きされています。 関連する伝票を後から探せるようにするための、いわば手作業のリンクです。 紙を繰らないと関係が分からないため、枚数が増えるほど確認に時間がかかります。

例外パターン

「ふつうの請求」ではない伝票たち

同じ伝票用紙でも、扱いがまったく違うものが混ざります。 仕組みを考えるときは、これらを取りこぼさないことが大切です。

緑色の代理店向け伝票
代理店 用紙そのものが違う
緑刷りで、明細欄に「納・取」の印も作業状況欄もありません。船外機1台 550,000円に対し 備考に429,000(仕入値)、△93,500(値引)が並びます。
現金領収済の伝票
現金 その場で受け取り済み
「領収済(No.92603)」と手書きされ、消費税6,300が別行に。 後から請求してはいけない伝票で、請求書を起こすと二重請求になります。
無償訪問の伝票
無償 明細が1行もない
「挨拶」に丸、営業日報に「機械動作の件」とだけ。 請求は発生しませんが、訪問の記録として社長確認は通ります。

分類してみると

種類用紙請求注意点
自社整備・修理あり(掛売)工賃の判断が必要。継続なら完了まで保留。
部品販売あり(掛売)部品代のみ。原価は仕入納品書から。
代理店向けあり様式が別。値引がマイナス表記で入る。
現金領収済済み再請求は二重請求。領収番号との突合が必要。
無償訪問なし明細が空。日報としてのみ残す。

最後の工程

紙の伝票を、奉行へ打ち直す

事務処理を終えた伝票は、最後に会計ソフト(奉行)へ手入力されます。 下は先ほどの伝票 No.501656 を入力した画面です。

奉行の売上伝票入力画面。伝票No.501656の明細10行が入力されている
奉行の売上伝票入力画面 — 伝票No.501656、得意先3010220(あさひ)、税抜金額37,940。 紙では4行だった明細が、部品別紙の中身を展開して10行になっています。
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同じ情報を2回書く

紙に書いた内容を、そのまま画面へ打ち直しています。伝票番号・日付・得意先・明細・金額のすべてが二度手間です。

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商品コードを選ぶ

1行ごとに商品コード(00001=部品、00002=整備など)を選びます。これが科目分けにあたります。

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検索できない

奉行には検索欄がありません。「あの部品をいつ使ったか」を調べるには、紙の伝票を繰るしかありません。

紙4行が、システムでは10行になります。 紙の「部品別紙 5,740」という1行が、奉行ではアノード620、エレメント1,600、 アノード380、プラグ2,240、ガスケット200、グロメット140、Oリング560 の7行に展開されています。 合計は5,740で一致します。紙は要約、システムは明細という関係です。

まとめ

どこに時間がかかっているか

ここまでの流れを踏まえると、負担は次の4か所に集中しています。

工程3

社長確認が直列になっている

伝票は必ず社長の目を通ります。社長が不在の週は伝票が溜まり、 その分だけ事務処理と請求が後ろにずれます。紙の束が手元にないと確認できない点も制約です。

工程4

金額の確認に電話が要る

工賃を書かずに上がってくる伝票が多く、事務が現場へ電話して確認します。 価格表はあっても、取り付け場所や作業の難しさで金額が変わるため、表だけでは決まりません。

保留

継続案件の二重起票

完了まで数か月かかる案件では、現場が「まだ請求していない」ことを忘れ、 同じ作業をもう一度起票してしまうことがあります。紙の束を見比べないと気づけません。

工程6

奉行への打ち直しと、検索できない過去

紙に書いた内容を人が打ち直しています。さらに奉行には検索欄がないため、 「この部品をいつ使ったか」という問い合わせのたびに紙を探すことになります。

整理すると、合計・区分・部品明細の展開といった計算で決まる部分は機械に任せられます。 一方、工賃の金額・継続かどうかの判断・関連伝票の紐付けは人が決める部分です。 この境界を意識して、人が決めた結果を早くデータに残せるようにすることが、 いちばん効果の大きい改善になります。