Fab Forward PMS — システム成熟度ロードマップ
取締役会向け提案書 / Board Proposal
作成日: 2026-04-08
作成者: 開発チーム
エグゼクティブサマリー
現在の PMS 設計は、帳票業務 (見積→受注→出荷→請求→入金) をカバーしている。
これは全体の約 40% に相当する。
残り 60% は「管理判断を支える仕組み」であり、
この部分がないと Excel と職人の勘 への依存は変わらない。
本提案では、システムの成熟度を 4 段階 に分け、
各段階で得られる 経営上の効果 と 放置した場合のリスク を示す。
成熟度モデル (4 段階)
| Level | 名称 | 内容 | 状態 |
|---|
| Level 4 | 計画型経営 | 需要予測、S&OP、設計変更管理 | 将来 |
| Level 3 | データ経営 | 在庫最適化、ロット追跡、仕入先評価 | 将来 |
| Level 2 | 現場管理 | スケジューリング、品質管理、原価差異分析 | 次の目標 |
| Level 1 | 帳票管理 | 見積→受注→手配→製作→売上→入金 | ← 現在地 |
Level 1: 帳票管理 (現在地) — "データが流れる"
カバー範囲
| 業務 | 状態 | 効果 |
|---|
| 見積作成・改訂管理 | 済 | 見積の版管理。過去の見積を検索可能 |
| 受注管理 | 済 | 受注番号を軸に全データが紐付く |
| 外注手配・注文書発行 | 済 | 手配漏れの防止。注文書の自動生成 |
| 製作指示・作業日報 | 済 | 作業時間の記録。労務費の自動計算 |
| 受入・検収 | 済 | 入荷記録。検収金額の管理 |
| 売上・請求・入金 | 済 | 請求書発行。売掛残高の管理 |
| 買掛・支払 | 済 | 仕入先への支払管理 |
| 原価集計 (実績) | 済 | 受注別の材料費+労務費を自動集計 |
| 営業CRM連携 | 済 | 案件→受注の変換。製造進捗の共有 |
経営効果
- 紙・Excel の帳票を システムに一元化
- 受注別の実際原価が リアルタイムで見える
- 営業と製造が 同じデータを見て会話できる
限界
- 「この受注は赤字か黒字か」は分かる
- 「なぜ 赤字なのか」は分からない → Level 2 が必要
Level 2: 現場管理 — "判断できる"
推奨: 次に着手すべき領域
2A. 有限能力スケジューリング
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 「明後日までにできる?」に即答できない。現場リーダーの頭の中にしか負荷状況がない |
| 解決 | 部署別の負荷グラフ。納期順 (EDD) + 遅延リスク (CR) で優先度を自動計算 |
| 経営効果 | 納期遅延率の低減。受注判断時に「受けられるか」をデータで判断 |
| 放置リスク | 納期遅延 → 顧客信頼の失墜。属人的な差立て → 後継者が引き継げない |
現在: 社長 "たぶん間に合う" → 間に合わない → 謝罪 → 信頼低下
将来: システム "溶接工程が97%。2日遅延リスクあり" → 事前対策 → 納期遵守
2B. 品質管理 (不良・是正)
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 不良が出ても「気をつけて」で終わる。同じミスが繰り返される |
| 解決 | 不良記録 → 原因分析 (4M) → 是正処置 (CAPA) → 効果確認のサイクル |
| 経営効果 | 不良率の低減 → 手直しコスト削減。顧客クレームの減少 |
| 放置リスク | 重大品質事故 → 取引停止。ISO 審査での指摘 |
現在: 検収 → 合格/不合格 → 終了
将来: 検収 → 不合格 → 不良種別記録 → なぜなぜ分析 → 是正 → 水平展開 → 再発防止
2C. 標準原価・差異分析
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 「赤字だった」は分かるが、「材料が高かったのか、作業が遅かったのか」が分からない |
| 解決 | 受注前に標準原価を設定。完了後に実際原価との差異を自動分析 |
| 経営効果 | 原価超過の原因が特定できる → 的確な改善策。見積精度の向上 |
| 放置リスク | 赤字受注の繰り返し。「なぜ儲からないか」が永遠に分からない |
現在: 粗利率 8% (赤) — なぜ?
将来: 価格差異 ¥-30,000 (材料高騰) + 能率差異 ¥-50,000 (段取り3回やり直し)
→ 材料: 仕入先交渉 → 段取り: SMED 改善
Level 2 の投資対効果
| 指標 | 現在 | Level 2 達成後 (目標) |
|---|
| 納期遅延率 | 15% (推定) | 5% 以下 |
| 不良による手直しコスト | 不明 (記録なし) | 可視化 → 30% 削減目標 |
| 見積精度 (実績/見積) | ±30% (推定) | ±15% 以内 |
| 赤字受注の検知 | 完了後 | 製造中にアラート |
Level 3: データ経営 — "最適化できる"
3A. 在庫管理
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 汎用材料の在庫が見えない。「あると思ったらなかった」で緊急発注 |
| 解決 | 安全在庫・発注点の自動計算。ABC 分析で管理レベルを最適化 |
| 経営効果 | 緊急発注 (割高) の削減。在庫回転率の向上 → 運転資金の改善 |
3B. ロット追跡 (トレーサビリティ)
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 品質問題発生時に「どの材料ロットが原因か」を追跡できない |
| 解決 | 受入ロット → 製作指示 → 検収の紐付け。逆引き検索 |
| 経営効果 | 品質問題の影響範囲を即座に特定。大手取引先の監査要件に対応 |
3C. 仕入先評価
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 仕入先の選定が「付き合いが長いから」の属人判断 |
| 解決 | 納期遵守率・不良率・価格推移を自動スコアリング |
| 経営効果 | データに基づく調達判断。価格交渉の根拠 |
Level 4: 計画型経営 — "先を読める"
4A. S&OP (販売・生産計画)
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 「来月忙しくなりそう」が社長の勘でしか分からない |
| 解決 | 営業パイプライン (確度別) → 負荷予測 → 人員・外注の事前手配 |
| 経営効果 | 繁忙期の残業削減。閑散期の営業強化。経営の予見可能性 |
4B. 需要予測連携
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 汎用材料の先行手配ができない |
| 解決 | 営業 CRM の案件確度 × BOM → 材料の先行所要量を自動計算 |
| 経営効果 | 調達リードタイムの短縮。材料費の安定 (まとめ買い交渉) |
4C. 設計変更管理 (ECN)
| 項目 | 内容 |
|---|
| 課題 | 図面変更が口頭伝達。旧図面で加工するミスが発生 |
| 解決 | 設計変更通知 (ECN) → BOM 版管理 → 有効日制御 |
| 経営効果 | 設計変更起因の不良ゼロ。図面管理の標準化 |
MECE 分類: 9 つの施策の整理
軸 1: 業務領域 (横)
| 営業・見積 | 調達・在庫 | 製造・品質 | 経理・原価 |
|---|
| L1 済 | 見積・受注 | 手配・受入 | 製作指示・日報 | 売上・請求・入金・買掛 |
| L2 | — | — | スケジューリング, 品質管理 | 標準原価・差異 |
| L3 | — | 在庫管理, 仕入先評価 | ロット追跡 | — |
| L4 | S&OP, 需要予測 | — | ECN | — |
軸 2: 経営課題 (縦)
| 経営課題 | 対応する施策 | Level |
|---|
| 納期を守れない | スケジューリング | L2 |
| 同じ不良を繰り返す | 品質管理 (CAPA) | L2 |
| なぜ赤字か分からない | 差異分析 | L2 |
| 材料が足りない/余る | 在庫管理 | L3 |
| 品質問題の原因が追えない | ロット追跡 | L3 |
| 仕入先の良し悪しが分からない | 仕入先評価 | L3 |
| 来月の負荷が見えない | S&OP | L4 |
| 材料の先行手配ができない | 需要予測連携 | L4 |
| 図面変更でミスが出る | ECN | L4 |
MECE チェック:
- 業務領域 × レベルのマトリクスで 漏れなし・重複なし
- 各施策は 1 つの経営課題に 1:1 対応 (独立)
- 全施策を実施すると知識ベースの要件を 100% カバー
推奨スケジュール
2026 Q2-Q3 Level 1 完成 (現在の設計を実装)
├── 見積→受注→手配→製作→売上→入金
└── 営業CRM連携
2026 Q4-2027 Q1 Level 2 着手
├── 2A スケジューリング (部署別負荷グラフ + EDD)
├── 2B 品質管理 (不良記録 + 是正処置)
└── 2C 標準原価・差異分析
2027 Q2-Q3 Level 3 着手
├── 3A 在庫管理 (安全在庫 + 発注点)
├── 3B ロット追跡
└── 3C 仕入先評価
2027 Q4- Level 4 着手
├── 4A S&OP
├── 4B 需要予測連携
└── 4C ECN
判断いただきたいこと
1. Level 2 の優先順位
3 つの施策 (スケジューリング / 品質 / 差異分析) のうち、
どれを最初に着手 すべきか? 以下の判断基準を提示します:
| 判断基準 | スケジューリング | 品質管理 | 差異分析 |
|---|
| 顧客への影響 | 最大 (納期) | 大 (品質) | 小 (内部) |
| 社内の痛みの大きさ | 大 | 中 | 大 |
| 実装の難易度 | 中 | 低 | 中 |
| 後継者問題への寄与 | 最大 | 大 | 大 |
開発チームの推奨: 2A スケジューリング を最優先。
理由: 納期遵守は顧客信頼に直結し、属人化の最たるものが「差立て」であるため。
2. Level 3-4 のスコープ確認
Level 3-4 は 現時点で設計のみ (実装は Level 2 完了後)。
この方針でよいか、それとも特定の施策を前倒しすべきか?
3. 投資の意思確認
Level 1 (帳票管理) だけでは Excel からの脱却 に留まる。
経営判断の質を上げる には Level 2 以降が必須。
Level 2 までの追加開発への投資判断をお願いしたい。
補足: 本提案の根拠
本提案は以下のドキュメントに基づいています:
| ドキュメント | 内容 | 場所 |
|---|
| 製造業ナレッジベース | 教科書 8 冊から抽出した一般知識 (15 文書) | /docs/knowledge/ |
| DDD 設計書 | 現在のシステム設計 (12 文書) | /docs/ddd/ |
| analyze-pms | 旧システムの DB スキーマ分析 (62 テーブル) | 別リポジトリ |
すべてのドキュメントは Web アプリ (/knowledge, /ddd) で閲覧可能です。