制約理論 / Theory of Constraints (TOC)
ゴールドラットの制約理論: ボトルネック管理、DBR、スループット会計。
→ 知識ベース:
knowledge/01-manufacturing-fundamentals/scheduling.md§4 (ボトルネック管理)
1. 基本概念
定義
システム全体のスループットは、最も弱い環節 (制約/ボトルネック) によって決まる
鎖の強さは最も弱い環で決まる。工場全体の生産量はボトルネック設備の能力で決まる。
3 つの指標
| 指標 | 英語 | 定義 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| スループット | Throughput (T) | 販売を通じてシステムがお金を生み出す速度 | 最優先 |
| 在庫 | Inventory (I) | 販売しようとして投資したお金 | 削減 |
| 業務費用 | Operating Expense (OE) | 在庫をスループットに変換するための支出 | 削減 |
利益の公式
利益 = T - OE
投資収益率 = (T - OE) / I
TOC の視点: コスト削減 (OE↓) よりスループット向上 (T↑) を優先する。
2. 5 つの集中ステップ (Five Focusing Steps)
1. 制約を特定する (Identify)
↓
2. 制約を最大限に活用する (Exploit)
↓
3. 制約以外を制約に従属させる (Subordinate)
↓
4. 制約を強化する (Elevate)
↓
5. 惰性に注意し、1 に戻る (Repeat)
各ステップの説明
Step 1: 制約を特定する
- 仕掛品が最も溜まっている工程 = ボトルネック
- 負荷率が 90% 超の設備
Step 2: 制約を最大限に活用する
- ボトルネック設備を止めない (昼休みも稼働)
- 段取り替えを最小化
- 不良品をボトルネックに流さない (事前検査)
Step 3: 制約以外を従属させる
- 非ボトルネック設備はボトルネックのペースに合わせる
- 非ボトルネックの稼働率 100% を目指さない (過剰生産になる)
Step 4: 制約を強化する
- 設備増設、残業、外注活用
- これは投資を伴うので、Step 2-3 を先にやる
Step 5: 繰り返す
- ボトルネックが解消されると、別の工程がボトルネックになる
- 常に「今のボトルネックはどこか?」を問い続ける
3. DBR (Drum-Buffer-Rope)
TOC のスケジューリング手法。
[投入] ──rope──→ [工程A] → [Buffer] → [ボトルネック (Drum)] → [工程C] → [出荷]
| 要素 | 英語 | 役割 |
|---|---|---|
| ドラム | Drum | ボトルネック設備のスケジュール。全体のペースを決める |
| バッファ | Buffer | ボトルネックの前に時間バッファを置く。飢餓 (材料切れ) を防止 |
| ロープ | Rope | 材料投入をドラムに同期させる。過剰投入を防止 |
MRP との比較
| MRP | DBR | |
|---|---|---|
| スケジューリング | 全工程を個別にスケジュール | ボトルネックだけをスケジュール |
| バッファ | 安全在庫 (数量バッファ) | 時間バッファ |
| 投入制御 | 全工程の開始日を計画 | ロープで投入ペースを制御 |
| 管理ポイント | 全工程 | ボトルネック + 投入 + 出荷 の 3 点 |
4. スループット会計 (Throughput Accounting)
従来の原価計算との違い
| 原価計算 | スループット会計 | |
|---|---|---|
| 重視 | コスト最小化 | スループット最大化 |
| 判断基準 | 単位あたり原価 | スループット/制約時間 |
| 在庫の扱い | 資産 (B/S に計上) | 負債 (現金が在庫に変わっている) |
| 局所最適 | 各工程の効率を上げる | ボトルネックの効率だけに集中 |
製品ミックスの意思決定
ボトルネック 1 時間あたりのスループット で優先順位を決める。
製品 A: 売価 ¥10,000, 材料費 ¥4,000, ボトルネック時間 2h
→ スループット/制約時間 = (10,000 - 4,000) / 2 = ¥3,000/h
製品 B: 売価 ¥8,000, 材料費 ¥2,000, ボトルネック時間 1h
→ スループット/制約時間 = (8,000 - 2,000) / 1 = ¥6,000/h
→ 製品 B を優先すべき (ボトルネック時間あたりの利益が高い)
5. 受注生産での TOC 適用
ボトルネックの特定方法
| 方法 | データソース | 我々のシステムでは |
|---|---|---|
| WIP 観察 | 仕掛品が溜まっている場所 | 部署別の受注残 |
| 負荷率計算 | 必要能力/利用可能能力 | T_NIPPO の工程別集計 |
| 納期遅延分析 | どの工程で遅れるか | 受注の進捗追跡 |
実務的な適用
- 部署別の負荷グラフ を見て、ボトルネック部署を特定
- ボトルネック部署の 段取り時間を削減 (SMED)
- ボトルネック部署に 不良品を流さない (事前検査)
- 受注判断時に ボトルネック負荷 を確認してから納期回答
- 非ボトルネック部署の 過剰投入を制限 (WIP 制限)
6. TOC の思考プロセス (Thinking Processes)
複雑な問題を論理的に分析するツール群:
| ツール | 英語 | 用途 |
|---|---|---|
| 現状ツリー | Current Reality Tree | 現在の問題の因果関係を分析 |
| 対立解消図 | Evaporating Cloud | 矛盾する要求の根本原因を見つける |
| 未来ツリー | Future Reality Tree | 対策の効果を論理的に検証 |
| 前提条件ツリー | Prerequisite Tree | 実行の障害と克服手順を整理 |
| 移行ツリー | Transition Tree | 実行計画の詳細化 |